平沢の大入道(ひらさわのおおにゅうどう)
大嶺 白倉
その昔、白倉(しらくら)の人たちは平沢の山でしいたけを作っていました。
ところが、不思議(ふしぎ)なことにしいたけが出始めると、決まって何物かにぬすまれてしまっていました。
村人たちは、はらが立つやらがっかりするやらでしたが、だれのしわざかわかりません。
「もしや、この中にだれか悪いことを考える者がいてがいて、こっそりぬすむのではないか。」
こんなうたがいをもつ者もいました。
しかし、考えてみると村にはそんな悪い人は一人もいません。それに、ぬすんだところで山の中の一本道、どこかで見つかってしまうはずです。
「人間でないとしたら、きっと動物の仕業(しわざ)にちがいない。」
村人たちは山に入って交代で見はることにしました。
ある夜のことです。何か気配(けはい)がしたかと思うと、どこからともなく坊主頭(ぼうずあたま)の大男があらわれました。
「やっ、来たぞ。」
「こらっ、何者だ。」
村人たちはロ々に叫(さけ)んで大男を追いかけました。
ところが、とたんに大男のすがたは消えて、あとには大きな岩が一つあるだけでした。
「おかしいなあ。たしかに大男を見たんだがなあ。」
みんな、なっとくがいきません。
翌日(よくじつ)、村人たちは猟師(りょうし)と猟犬(りょうけん)をたのんで、その岩を囲みました。
「この岩だ。こいつがあやしいぞ。」
そのときです。突然(突然)猟犬がその岩に向かってはげしくほえたて、どっとおそいかかりました。
すると、大岩がたちまち一匹(いっぴき)の大猿(おおざる)にすがたをかえたではありませんか。大猿と猟犬とのはげしい戦(たたか)いがはじまりました。
「おお、やっぱりこいつだ。しいたけどろぼうだ。うってしまえ。」
ズドーン。
一発の銃声(じゅうせい)が山々にひびきわたりました。
大猿を退治(たいじ)してからは、二度と平沢のしいたけ山には大入道はでなくなったということです。