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白山神社小仏様.jpg
「白山神社 小仏様」
さとうなつみ作

小佛山(こぼとけやま)

​瀬尻 大庭

 昔、大庭に三室三太夫という人が住んでいました。

 ある日、三太夫は、家の前にある「天狗の輪」であみを使って魚とりをしていました。ちょうどそのころは雨続きで、天竜川は水かさがふえていました。川の上流では川から水があふれ、田畑が水につかったり、家が流されたりするところがあるほどでした。

 川の水がましたせいでしょうか。その日は魚がおもしろいようにたくさんとれて、三太夫はとてもまんぞくしていました。日もくれてきて、そろそろあみをあげて家に帰ろうかと思ったその時、三太夫はぴくんとたしかな手ごたえ※1を感じました。

「よし。最後に大物がかかったぞ。」

意気ごんであみをあげてみると、なんと、仏像※2があみの中に入っているではありませんか。三太夫はびっくりしました。

「どうしてあみの中に仏像が⋯⋯。」

三太夫はおそるおそる仏像に近づき、あみから出しました。

 そして、

「これはえらいことになった。ひょっとしたらばちが当たるかもしれない。」

三太夫は、天竜川の中に仏像をもどした方がいいと考え、水の流れにその仏像を入れました。ところが、仏像は、川下の方へ流れようとせず、また三太夫のあみに入ってきたのです。

 三太夫は気味悪く思い、あみから取り出した仏像をもう一度水の中に入れました。しかし、またあみの中に入ってきました。三太夫は、何度も何度も川下に流そうとしましたが、そのたびごとに三太夫のあみの中に帰ってきました。

「これはよくよくのことだ。わしのうちにまつれ※3ということかもしれない。」

 そう思うと、三太夫は仏像を拾い上げ、あみをかたづけるのも早々に、仏像を大事にかかえて家に帰りました。

家に着くと仏像のどろをあらい落として、家の仏壇におさめ、大切にまつることにしました。

きれいになった仏像をよくよく見ると、ひざの上に子供をだいためずらしい仏様でした。

 それから何日かたったある日のばんのことです。三太夫がぐっすりねむっていると、拾ってきた仏像がゆめまくら※4に立って、

「水音が近い。天竜川がこわい。」

ともうされました。

「そうか。あの仏様は天竜川の水が増して流されたにちがいない。だから天竜川の水音をこわがっているんだ。」

 そう思った三太夫は、さっそくうら山にほこらを作り、仏像をそこにうつしてまつることにしました。

(そこは今でも小仏屋敷とよばれています。)

「ここなら、川からはなれているからよいだろう。」

と三太夫はほっと安心しました。

 しかしその夜、仏像がまた三太夫のゆめまくらに立って

「水音が近い、天竜川がこわい。」

ともうされました。

「はてさてこまったぞ。それではどこへおうつすもうしたらよいだろうか。」

と考えこんでしまいました。そして、川音の聞こえないよいところはないかと、山の中をあちらこちらとさがして歩き回りました。村人たちもいっしょにさがしてくれました。しばらくして、やっとほこらを作るのにちょうどよい場所が見つかりました。そこは人々から「天王森(てんのうもり)」と呼ばれているところで、山の中腹※5にあり、牛頭天王(ごずてんのう)※6をおまつりしてある場所でした。川からはずっとはなれているからここがよいと決めて、そこにほこらをうつし、仏像を大切におくことにしました。

「これでよい。これでよい。」

と、三太夫も村人たちもすっかり安心しきっていました。

ところがところが、仏像は、またまた三太夫のゆめまくらに立って、

「たびたびほこらをうつしてもらってもうしわけないが、天王森でも時々水音が耳につく。天竜川がおそろしい。」

と、悲しそうな声でおっしゃるではありませんか。

 仏様の声に目を覚ました三太夫は、またまたどうしたらよいのか分からなくなりました。

 結局、最後に決めたところが、村では一番高いところと言われている丸山のてっぺんでした。そこはすみきった大空と緑の山なみだけが目にうつり、小鳥の声と松風の音の他は物音一つ聞こえないしずかな場所でした。この丸山には、信仰※7あつい十一面観音※8と、加賀(今の石川県の一部)白山※9からまねいた白山妙理権現(みょうりごんげん)をまつるやしろ※10がありました。

 こうして三度ほこらをうつした仏様は、それ以来小佛様とよばれ、この山も小佛山とよばれるようになりました。子宝※11、安産※12の仏様として、広く信仰を集めて今日にいたっています。ここにまつられた小仏様と一対(いっつい)※13の男の仏様は、佐久間町浦川の観音寺にあると伝えられています。

 

※1手に受ける感じ。

※2佛の姿を形にしたもの。

※3神として大切におく。

※4ゆめにあらわれて何か知らせること。

※5山のてっぺんとふもとの間。

※6体は人間で牛の頭を持つおに。じごくで死者を苦しめる。

※7神や仏を信じること。

※8頭の上に九つの小さな顔とその上に一つの顔があり、本体とあわせて十一個の顔がある観音様。

※9石川県と岐阜県のさかいにある山。

※10神様をまつるたて物。

※11子供ができるようになること。

※12苦しまずに無事に子供をうむこと。

※13二つで一組になっているもの。

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