機織淵の話(はたおりぶちのはなし)
瀬尻 大庭
大庭の北側を流れる大沢が、不動沢と合流するあたりに、機織という淵※1があります。木々に囲まれ、昼でも暗く、まわりはけわしいがけになっています。
この淵には悲しい話があります。
ある心のやさしいむすめが、となりの土地へおよめに行きました。機織りが上手で、よめいりのときに持ってきた機具(はたぐ)※2で、一生けんめいぬのを織りました。
しかし、なかなか子どもが産まれませんでした。そのため、自分の生まれた家にもどらなくてはなりませんでした。
むすめは悲しい気持ちで、重い機具をせおい、なれない急な山道を歩いていました。あたりはいつの間にか暗くなり、自分の足元※3さえ見えなくなっていました。と、そのとき、木の根につまずいたむすめは、機具
に引っぱられるように落ちていきました。そこには淵がありました。そして、機具といっしょにしずんでしまいました。
それから、その淵からは、悲しそうな機を織る音が聞こえてきたということです。
もう一つ、この淵にはこんな話が伝わっています。
ある日、一人の木こりが、この淵の近くでたき木にする木を切っていました。しかし、手か
らおのをすべらせ、落としてしまいました。おのはがけにぶつかりながら、真下にある淵の中
に落ちてしまいました。
木こりは、がっかりしながらも、次の日、かわりのおのを持って、この淵の近くにやってきました。
そして、木のみきにつかまりながら、そうっと淵の中をのぞいてみました。すると、木こりは、
「あっ。おのが。」とおどろきの声をあげました。
きのう、たしかに淵の中に落ちた自分のおのが、淵のと中にある岩の上におかれているではありませんか。
この話を聞いた村の人たちは、
「きっと、淵の主が、おのを返してくれたのにちがいない。」
と、ロ々に話したそうです。
※1流れる水がたまって深くなった所。
※2機織りの機械
※3立っている足の下とそのまわり