top of page

天狗の輪(てんぐのわ)

瀬尻

 秋葉ダムができるその昔、天竜川はゆたかな水をたたえ、川はとうとうと流れていました。

瀬尻の下流は流れも急で、大きな瀬※1を下ると深く青々としたふち※2があり、また瀬に変わるといった変化にとんだ川でした。

 天竜川の大庭あたりの水ぎわには、「天狗岩」という大きな岩が横たわっていました。この岩

は、川上のたきのような瀬の下手にあって、川の流れはここでゆるやかになり、しばらくゆっ

たりと流れるよどみに変わるところでした。この大岩にぶつかった流れは、下手でぐるりと向

きを変え、大きな円をえがいて輪をつくっていました。岩の大きさは、長さが五メートル、あ

つみはニメートルぐらいありました。岩のまん中には数人がゆったりすわれるほどのくぼみがあり、この岩にすわって魚つりをするのにちょうどよくなっていました。

 言い伝えによれば、昔、天狗がこの大岩にすわって魚をとっていたそうです。そこでこの岩を「天狗岩」、川の流れが輪をえがくこのあたりを「天狗の輪」とよんだそうです。

 また、「天狗の輪」のうら山には松の大木があって、夜ごと魚をとりにとんできた天狗がそのえだでひと休みをしたそうです。また、まわりには火の玉がとびかい、「天狗の輪」のあたりまでこうこうと光が指していたと言われています。

 「天狗の輪」は、大庭の三室さんの家の近くにあって、三室さんの屋号※3も天狗の輪といいます。

 

※1川の流れのはやい所

※2水がたまって流れないところ。

※3家のよび名。

bottom of page