鳴瀬龍王(なるせりゅうおう)
瀬尻
その昔、水窪町小畑(みさくぼちょうおばた)に、「たか女」という女がおりました。
たか女には、二人のかわいい子どもがいて、水窪川に、毎日、おむつをあらいに通っていま
した。
ある日、たか女は、いつものように水窪川へ行き、せんたくをしていました。すると、どうしたことか、いきなり、たか女は、あらいかけのおむつを石の上においたまま、たらいに乗っ
て川の流れに乗り出しました。それを見ていたおっとは、おどろいて追いかけましたが、とう
とうたか女を見失ってしまいました。たか女の乗ったたらいは、どんどん川を下り天竜川まで出てしまいました。そして、鳴瀬※1まで来たとき、ついにたらいがひっくり返り、たか女は川の中にしずんでしまいました。
おっとは二人の子どもをつれて、たか女をさがしながら鳴瀬までやって来ました。すると、鳴瀬のたきの近くでたか女のよぶ声がしました。
「わたしは龍王にみこまれてしまい、ここに来ました。もう帰ることができません。かわいい子どもとも会えません。どうか、おちちの代わりにこれをやってください。」
と言う声といっしょに、たまごが二つ、石の上にあらわれました。それでも、おっとはあきらめきれず、
「せめて一度だけすがたを見せてくれ。」
と、一生けんめいたのみました。
すると、とつぜん、あたりが真っ暗になり、たきのあたりがざわめいたかと思うと、十二本のつのを金色に光らせた龍がすがたをあらわしました。龍は、おっとの方をしばらく見つめると、やがて身をくねらせて、三の滝のふちに静かにすがたを消してしまいました。
このことがあってから鳴瀬では、「八大龍王」といって、龍王をまつるようになったと伝えられています。また、目のやまい
にきくと言い伝えられ、病気が治るようにとお参りする人も多く、ひがんの祭りはたいへんにぎわったと言います。
瀬尻という地名も、この鳴瀬に住んでいた八大龍王のおしりにあたる(鳴瀬の下流にある)ということで名付けられたとも言われています。
※1龍山村瀬尻と佐久間町戸口のさかい。