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やたろう木
瀬尻 尾曲
昔、黒石の尾曲に近いところに、大きな大きな木がありました。
そして、その近くの下村に弥太郎という人が住んでいました。
ある日、弥太郎は、だれも切ろうとしなかった、この大きな木を切りたおそうと思いました。
弥太郎は、大きなおのを手に持ち、木を切り始めました。しかし、あまりにも大きな木なので、その日のうちに、木を切りたおすことができませんでした。弥太郎は、木を切りかけたままで、家に帰りました。
次の日、続きの仕事をしようと、この大木のところに来てみると、不思議なことが起きていました。
きのう、たしかに切ったはずの木は、木っ端(木のきりくず)が、また、元のようにくっついて、切り始める前と同じ木になっているではありませんか。
弥太郎は、どうしても、この木を切りたおしたいと思いました。そのためには、切ったとき、木っ端が元にもどらないようにしなければなりません。弥太郎は考えたあげく、切る時に、木っ端を次々に焼いてしまおうと思いました。
弥太郎は、二回目に木を切る時に、木っ端を次々に火の中に投げ入れて、焼いてしまいました。
木は、もう、元の木にもどることはありませんでした。
そして、とうとう、この大木は、弥太郎の手によって切りたおされてしまいました。
村の人たちは、この木を「やたろう木」とよぶようになったそうです。この木があった場所に来ると、大きな大きな木があったことを思い出し、「やたろう木」の話をしたそうです。
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